東京高等裁判所 昭和32年(ネ)552号 判決
被控訴人がその主張する中古自動車一台を昭和三十年八月二十六日控訴人に対し代金二十九万円と定め、(一)契約と同時に金五万円を支払い、残代金は同年九月から昭和三十一年八月まで毎月三十日(二月は二十八日)金二万円ずつ分割して支払うこと、(二)被控訴人は契約と同時に右自動車を控訴人に引き渡すけれども、その所有権は代金完済まで留保すること、(三)控訴人が月賦金の支払を怠つたときは、その日数に応じて金百円につき日歩金五銭の割合の過怠金を支払うこと、この場合は控訴人は催告を要せず月賦払の利益を失い残代金を一時に請求せられることの約定で、売り渡し、右自動車を控訴人に引き渡したこと、控訴人が被控訴人に右代金のうち契約と同時に金五万円、昭和三十年九月三十日金六千円、同年十月三十日金二万円、同年十一月三十日金二万円を支払つたことは、当事者間に争がない。そして控訴人が約旨に基くその余の支払をしたことは控訴人の主張立証しないところであるので、控訴人は右契約に従つて月賦金の支払を怠つた昭和三十年十二月三十日の翌日である同年十二月三十一日から残代金全部十九万四千円から右金員完済に至るまで金百円につき日歩五銭の割合の過怠金を支払う義務があることとなるわけであり、控訴人が右支払をなしたときはじめて右自動車の所有権は控訴人に帰するものというべきである。
しかるに、控訴人は、右自動車には隠れた瑕疵があつて右売買契約は目的を達することができなかつたから昭和三十一年十月十八日解除した、と主張しているけれども、右解除の日は本訴提起の日である昭和三十一年四月二十三日より約六カ月の後のことであり、原審証人宮田信太郎、太田善八、野尻幸平、小久保藤次郎、市村光男、柳沼禎一、荒川芳貞、中村保一の各証言を綜合すれば控訴人は予め陸運事務所で車台検査を受け昭和三十年八月から一年間の有効期限を附与された本件自動車を試運転の上異状のないことを確かめ、分解掃除をなさしめた後、これを買い受け、糞尿桶の運搬にしばらく使用した後、被控訴人の承諾を受け昭和三十年十月から同年十二月までの間に鉄工業荒川芳貞に依頼し代金二十六万円で、車台に糞尿タンクを備えつける改造工作をなさしめ、その後引きつづき昭和三十一年八月頃までこれを糞尿運搬に使用していたこと、その間エンヂンに力がなく、調子の悪いことを発見して、しばしば修理をなしてはまた使用を継続してきたことを認めることができる。
しかし、エンヂンの調子の悪いことなら、改造費二十六万円を投ずるに先立ち当然発見されていたであろうと思われるし、改造後に悪くなつたとすれば、改造工作に基因するものであるやも知れず、(原審証人小久保藤次郎の証言によれば、タンクを取りつけたため本件自動車に欠陥を生じたものであることが認められる。)このような状況の下において、本件自動車に売買引渡の時に控訴人主張の隠れた瑕疵があつたことは到底認め難いところである。従つて本件自動車に隠れた瑕疵のあつたことを理由とする控訴人の解除の意思表示はもとよりその効なきものである。
(大江 猪俣 古原)